「まだ自分でみられます」「施設に入れるのは、かわいそうな気がして」。そうおっしゃりながらご相談に来られる方は、とても多くいらっしゃいます。ここまで支えてこられたこと自体、簡単なことではありません。ただ、在宅介護には、ご本人の状態とは別に「介護する側がどこまで続けられるか」というもうひとつの物差しがあります。この記事では、限界が近づいたときに現れやすいサインを整理し、施設を考えはじめる目安と、その手前でまだ試せることをご説明します。
この記事の要点
目次
ご相談の場でよくうかがうのは、「いつからこうなったのか、自分でもよく分からない」というお話です。在宅介護は、ある日を境に急に重くなるのではなく、少しずつ手のかかることが増えていきます。ひとつひとつは「これくらいなら」と引き受けられる大きさなので、増えたことに気づきにくいのです。
そして、負担が増えても暮らしが回っているように見えるのは、介護する方が自分の側を削って埋めているからであることがほとんどです。削られているのは、睡眠、仕事、自分の通院、人と会う時間。どれも「なくても今日は死なないもの」から順に消えていきます。
図1在宅介護の負担は、3つの段階で重くなっていく
第3段階に入っていても、ご本人の要介護度は変わっていないことがあります。だからこそ「まだ大丈夫なはず」と考えてしまいやすいのですが、介護が続けられるかどうかは、ご本人の状態とご家族の余力の掛け算で決まります。片方だけを見ていると、判断の時期を見誤りやすくなります。
私たちがご相談をうかがうとき、ご本人の状態より先におたずねするのが、介護をなさっている方ご自身のことです。次の5つは、限界が近づいたときに現れやすいものです。
図2介護する方に現れやすいサイン
ひとつでも当てはまるなら、それは判断を急ぐべきという意味ではなく、いま一度、体制を見直す時期に来ているという合図です。とくに睡眠は、削られていることに本人が気づきにくいものです。「何時に寝て、何回起きたか」を1週間だけ書き出してみると、ご自身の状態が数字で見えます。
ご本人側の変化は、介護の手間そのものを大きくします。とくに次の3つは、在宅で続けられるかどうかを分けやすいところです。
図3在宅の負担が大きく変わる3つの変化
夜間の対応が必要になった
昼夜が逆転する、夜中に起き出す、夜間のトイレ介助が複数回になる。介護保険の在宅サービスは日中が中心のため、夜の時間は家族が担うことになりやすい部分です。
移動と排泄に人手が要る
立ち上がりや車いすへの移乗に支えが必要になり、排泄の介助が加わる段階です。介助する側の腰や膝への負担も、ここから急に増えます。
目を離せない場面が出てきた
転倒が増える、火の元や戸締りが不安、外出して戻れないことがある。「見守りの時間」は介護時間として数えにくいぶん、疲れが蓄積しやすくなります。
このうち夜間の対応が始まったときは、体制を見直す大きな節目と考えています。日中の負担は介護保険のサービスで分担できますが、夜の時間はご家族に集中しやすく、そのまま睡眠不足につながるためです。認知症による夜間の行動については、認知症でも入れる老人ホームの選び方で症状別に整理しています。
もうひとつ、見落とされやすいのがご家族どうしの関係です。介護そのものより、こちらのほうが先に立ちゆかなくなることもあります。
ご家族の間で起きやすいこと
これらは、話し合いの場を一度持つだけでも変わることがあります。その際、「誰が何をするか」より先に「いま何にどれだけ時間がかかっているか」を共有すると、話が具体的になりやすくなります。実務を担っている方の負担は、離れている方からは見えにくいためです。
「どうなったら施設を考えていいのか」というご質問を、よくいただきます。明確な線引きがあるわけではありませんが、私たちがひとつの目安としているのは次の3つです。
住まいを探しはじめる目安
ここで大切なのは、探しはじめることと、入居を決めることは別だという点です。候補を知っておくだけでも、いざというときの選択肢は大きく変わります。
図4探しはじめる時期で、選べる幅が変わります
限界を迎えてから
探しはじめた場合
その時点で空きのある施設が候補になります。見学に行く体力も残っていないことが多く、費用や場所の条件を詰めきれないまま決めることになりがちです。入居後に「もっと近いところがあった」と分かることもあります。
余力のあるうちに
探しはじめた場合
複数の施設を見比べ、費用と場所を落ち着いて検討できます。すぐに入居しない場合でも、候補を知っているだけで気持ちの余裕が変わります。空きが出たときに動ける状態になります。
ご相談に来られる方の多くは、「まだ早いでしょうか」とおっしゃいます。私たちの実感では、早すぎたと感じるご家族より、もっと早く動けばよかったとおっしゃるご家族のほうが、はるかに多いのが実情です。
まだ在宅を続けたい、という段階でもご相談ください
「限界かどうか分からない」という時点でのご相談を、日ごろから数多くお受けしています。いまの体制で続けられそうか、どのサービスを足せば楽になるか、そのうえで住まいを見ておくならどのあたりか。ご事情をうかがったうえで、順番から一緒に考えます。ご相談は何度でも無料です。
実際にご相談いただいた方のお話はお客様の声でご覧いただけます。
限界が近いと感じたとき、すぐに入居しか道がないわけではありません。在宅の体制を組み直すことで、もうしばらく続けられる場合があります。ご担当のケアマネジャーに相談できる主な方法は、次のとおりです。
図5負担の分け方には3つの方向があります
日中を預ける
デイサービスの回数を増やす方法です。入浴の介助を任せられるだけでも、ご家族の負担はまとまって軽くなります。ご本人が乗り気でない場合は、まず見学や体験からという進め方もできます。
泊まりで預ける
ショートステイを使い、続けて数日お預けする方法です。介護する方がまとめて眠れる日をつくるのが目的で、施設の暮らしを試す機会にもなります。
自宅に来てもらう
訪問介護や訪問看護を組み合わせます。夜間の不安が大きい場合は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が使える地域もあります。
「通い」「泊まり」「訪問」をひとつの事業所でまとめて使える小規模多機能型居宅介護という選択肢もあります。顔なじみの職員が続けて関わるため、環境の変化が負担になりやすい方に向いています。
ひとつだけ、頭の隅に置いておきたいこと
介護保険で使えるサービスの量には、要介護度ごとの上限(区分支給限度基準額)があります。上限を超えた分は全額自己負担になるため、サービスを足していくと、ある時点から費用が施設の月額に近づいていきます。「在宅のほうが安い」とは限らないのが、この段階の難しいところです。おおよその費用は費用シミュレーションで確かめられます。
どのサービスをどう組み合わせるかは、ご担当のケアマネジャーが中心になって考えます。担当がまだ決まっていない場合や、そもそも要介護認定を受けていない場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターが入口になります。認定の手順は要介護認定の申請方法と流れにまとめました。
「その時が来てから探せばいい」と考えていると、時間が足りなくなりやすいところです。民間の老人ホームで、ご相談からご入居までの目安は次のようになります。
図6ご相談から入居までの流れ(民間施設の場合)
※それぞれの段階にかかる、おおよその期間です。地域や施設の空き状況によって変わります。
早い場合で1か月、標準では2〜3か月とお考えください。空室がない施設を希望される場合は、さらに待つことになります。費用を抑えられる特別養護老人ホームは、地域によって年単位でお待ちいただくこともあり、申し込みだけを先に済ませておく方も多くいらっしゃいます。
施設の種類ごとの違いは、老人ホームの種類と違いを一覧で解説で比べられます。費用の相場は老人ホームの費用相場と内訳をご覧ください。
そうお感じになる方は、本当に多くいらっしゃいます。ただ、実際にご入居されたあとで多くうかがうのは、「親と穏やかに話せるようになった」というお話です。介護の実務から少し離れると、家族としての時間が戻ってくるためです。介護をやめるのではなく、担い方を変える、と受け取っていただければと思います。
ほとんどの方がそうおっしゃいます。ご本人にとって施設は未知の場所ですから、自然なお気持ちです。まずはショートステイで数日過ごしていただき、実際の暮らしを知っていただくところから始める方法があります。進め方については親が施設入居を拒否したらで詳しくご説明しています。
早すぎるということはありません。むしろ、ご本人が見学に足を運べる状態のうちに動けるのは大きな利点です。ご自身で見て選ばれた住まいは、入居後の納得感が違ってきます。要支援や要介護1の段階から入居できる施設もあります。
ご相談で最も多いお困りごとです。ご本人の年金と預貯金、ご家族からの補助を合わせて、月々いくらまでなら無理がないかを先に決めておくと、施設選びの軸ができます。費用シミュレーションでおおよその金額を確かめられます。負担を軽くする公的な制度は高額介護サービス費をご覧ください。
「限界」という言葉を使わなくても大丈夫です。「夜、週に3日は起こされている」「先月は仕事を4日休んだ」というように、起きていることをそのままお伝えいただくと、ケアマネジャーは体制を組み直しやすくなります。事実を伝えることは、弱音ではなく必要な情報の共有です。
在宅介護の限界は、ご本人の要介護度ではなく、介護する方の睡眠と生活が保てているかどうかに先に現れます。夜間の対応が始まった、眠れない日が続いている、仕事を辞めることを考えはじめた。このいずれかに心当たりがあれば、体制を見直す時期に来ています。
見直しの選択肢は、施設への入居だけではありません。デイサービスやショートステイ、訪問のサービスを足して在宅を続ける道もあります。ただ、探しはじめてからご入居までには、一般的に2〜3か月程度かかります。並行して住まいを見ておくことが、いざというときの選択肢を広げます。
ここまで支えてこられたご家族が、ご自身の生活を取り戻すことは、ご本人にとっても悪いことではありません。どの段階からでも構いませんので、迷われたときはお声がけください。
この記事の監修者
東急ウェルネス株式会社
老人ホーム紹介サービス「住まいる」 マネージャー
福祉の現場に25年。特別養護老人ホームや有料老人ホームで介護職、生活相談員、ケアマネジャーを務めたのち、施設長、エリアマネージャーとして施設運営に携わってきました。2019年に東急ウェルネスへ入社。現在は老人ホーム紹介サービス「住まいる」のマネージャーとして、ご本人とご家族それぞれのお気持ちをうかがいながら、地域の医療・介護・福祉機関と連携し、納得のいく住まい選びをお手伝いしています。
本記事は、上記監修者が内容を確認したうえで公開しています。相談員のご紹介はこちら
出典・参考
※本記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な説明です。ご利用いただけるサービスの種類や量は、要介護度・お住まいの地域・ケアプランの内容によって異なります。実際のご利用にあたっては、ご担当のケアマネジャーまたはお住まいの市区町村の窓口にご確認ください。入居までの期間は施設の空室状況によって変わります。
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